C. T. Loo & Co., パリ.
C. T. Loo & Co., Paris.
陶俑は古代中国において、墓中を守り、また華やぐために非常に重視されました。著名な秦の始皇帝陵に始まり、漢代やのちの唐代にも優れた作品がありますが、本作の作られた北魏時代は仏教彫刻にも通ずる深い精神性を湛え、他の時代よりも一段と深遠な芸術性を有していると云えます。
持物は失われていますが、座して演奏する姿から、琴のような楽器を持っていたと考えられます。弦を押さえ、爪弾く姿から北魏の音色が今でも聞こえてくるようです。衣文は実に流麗に表現されており、その奥の肉体のしなやかさが看取されます。左膝がやや前に出た動きも自然で、見事な造形です。北魏代の人体表現は正面が重視され、体が板のように平坦に表される俑が多くありますが、本作は体躯の厚みがあり、正面も側面も意識された秀逸で立体的な作品です。北魏の楽人俑は少数ながら散見されますが、本品は中でもやや大ぶりなもので、大阪市立美術館で行われた「六朝の美術」展に出陳されたものに唯一類例が存在する珍しいタイプです。
本作はC. T. Loo扱いという来歴があります。Looは鑑賞美術の歴史において最も偉大なディーラーの一人であり、欧米の数々の美術館や大コレクターに名品を収めました。彼の活躍した20世紀初頭は、清朝の崩壊や、墳墓、遺跡の開発などにより市場に多くの優れた美術品が流入した時期でした。この楽人俑もそれらの美術館収蔵品と同様に高い芸術性を持っていると云えます。