隋唐に先立つ北斉時代に作られた独特の雰囲気を持った一品です。杯としては隋や唐のものと比してやや大ぶりで、さらに器形は横への張り出しが強く重厚かつ安定感のある印象です。高台も引き締まった非常に丁寧な作りで、高台際の角を落とすなど細部まで高い意識が感じられます。全体が総釉であり、見込みに3つの目跡があります。
鋭い突起によって表された文様は、丸が集合したメダイヨンのような文様で精緻かつ繊細です。持つと手に刺さるほど厳しく成形されています。このタイプはササン朝の金銀器を祖型とすると思われますが、北斉のうつわの方が洗練を極めており、より優雅な雰囲気を醸し出されていると云えるでしょう。
低火度で色釉を掛けた中国の鉛釉陶器は漢代と唐代に隆盛しました。特に唐三彩はその代表的なものですが、実はこの唐三彩のはじまりは謎が多く北斉時代の鉛釉陶器がその鍵を握っていると思われます。北斉の陶磁は遺例が非常に少なく未だ謎が多い分野です。しかしながら本作を見れば看取されるように、北斉陶磁は北朝の質実剛健とした美質と大唐帝国へ続いていくどことなく貴族的な香りが融合した大変魅力のあるやきものであることは疑うべくもありません。