日本では安南とも称される16世紀ベトナム作の壺です。胴部が六面に面取りされ、肩には五角形、胴には六角形の枠が取られ、葉文と幾何学文が交互に描かれています。底は丁寧に削られた碁笥底となっています
ベトナムの陶磁史は、漢以降の中国陶磁の変遷とほぼ並行しています。青花が焼成され始めたのが14世紀中葉で、中国に次いで長い青花の歴史を有しています。そのように中国を手本として作られている安南の青花ですが、本歌の中国青花と大きく異なった特徴を有しています。それは、胎土が磁胎ではなく、磁器と陶器の中間の半磁胎であるという点です。従って、ベトナムの青花は白化粧の上に呉須で絵付けされ、透明釉を掛けて焼成されています。このような製法の相違だけに起因するわけではないのでしょうが、安南青花には独特の親しみやすさが感じられます。
面取りされていてもまろやかさを醸し出す造形、落ち着いた灰白色を呈する素地、技巧に走ることなく描かれた青花の絵付けなどの安南らしい特徴が看取できますが、緩い作行のものが少なからず見られる中、本作は造形、絵付ともに引き締まっており、安南青花の中でも上手のものと云えましょう。ベトナムの陶磁は、桃山時代末期から江戸時代初期にかけて日本に将来され、茶道具としても用いられていました。本作には、黒柿で作られた蓋が伴っており、茶入として愛用されていたことがうかがわれます。