中国の文人たちは書斎に於いて造形の優れた奇石を鑑賞し、深山幽谷に想いを馳せました。そういった鑑賞石の中で、特に安徽省霊壁県で産される霊壁石は四大名石の一つとして知られています。特に清朝の乾隆帝には「天下第一石」と評されるなど、鑑賞石として高い評価を受けています。
本作は霊壁石の典型的なもので、石は緊密で硬質感があり叩くと鉄のような澄んだ高い音にも美しい響きがあります。また霊壁石は同じ四大名石の一つである大湖石などと比して、造形が峻厳で力強いことが特徴ですが、この奇石はまさに霊壁石の面目躍如といった作例です。またサイズも大きく堂々たる姿の優品で、北宋の画家范寛筆と伝わる「谿山行旅図」のようなそびえ立つ岩壁が想起されるようです。
奇石は文人達の美的感覚によって見出されたものですが、その造形性は近現代の抽象彫刻作品と通ずるところがあるようにも思われます。美的感覚に優れた過去の文人たちによって見出された名石は純粋な彫刻作品ではありませんが、彫刻作品に匹敵、凌駕する高い美質を有していると云えるかもしれません。