明の後半期、萬暦年間(1573-1620)に作られた五彩の盒子です。本来は蓋を伴っていたと思いますが、身のみでも萬暦五彩の華やかな魅力が感じられる見ごたえのある器です。見込みは捻り花のように仕切られた意匠となっており、その各区画は扇や花籠、貝や柘榴といった文様で埋め尽くされています。それらは道教の仙人を暗に示す持物であったり、富裕、豊穣、多産を寓意する吉祥文です。青花と様々な色釉で表された文様はどれも生き生きとして、器物全体が瑞祥に満ちています。
底部に書かれた「大明萬暦年製」の六字銘も切れの良い丁寧な字で、充実した時期の萬暦官窯の作例であることが伺えます。萬暦も後半期になると焼造量も増え、弱々しい銘の作も多く見られるようになりますが、本品のように良い官窯作品は銘を一見しただけでも魅力が感じられます。胎土も白く緊密、重厚な景徳鎮の典型で、まさに萬暦官窯らしい一品です。