Stephen Junkunc III (1904~1978年) 旧蔵.
Stephen Junkunc III (1904–1978) Collection.
眉をつりあげ目を見開き、口を大きく開けた表情は、この陶俑墳墓の主を守護するために武威を示したものでしょう。頬骨が発達し、豊かな顎鬚を蓄える姿は屈強な西方の民族を表したものかもしれません。これほど大型の作例は希少で、余程の身分の高い被葬者の副葬品であったと考えられます。身に付けた服の凹凸表現は素晴らしく、陶磁器ではありますが立体彫刻のレベルに達していると云えるでしょう。力強い造形の上に彩色がなされています。この色彩は剥落しやすく、状態の悪い陶俑が多い中で本作の保存は良好です。服の朱や顔の肌色などは特に往時の美しさを留めています。また特に注目されるのは外套に残る美しい青色です。これは当時希少であったペルシア方面から渡ってきたラピスラズリを使った彩色で、北魏という時代の国際性がこの俑の青からも推察されます。
北魏の時代には仏教美術が高度に発展したことで、墳墓に副葬する本作のような陶俑にも同時代的な感覚が流れています。それゆえに北魏の俑はどこか石仏にも通ずる崇高な美質が感じられ、他の時代の陶俑よりも深い精神性を有しているように思われます。
アメリカ、シカゴの蒐集家Stephen Junkunc III (1904~1978年) の旧蔵品でした。彼は山中商会の重要顧客であり、山中商会がシカゴに支店を出したことが、彼の中国陶磁コレクションに大きく寄与しているといわれています。