G.F.Giaquili Ferrini旧蔵.
G.F.Giaquili Ferrini Collection.
計算されたデザインと高い技巧が感じられる陶片です。雷文が表されていますが、異なる種類の范を用いて連続する模様に凹凸と明暗の差が生まれるように配置されており、全体には市松文様のようにも見えるようになっている大変凝った意匠が興味深い一品です。
洗練された特殊な白い陶器「白陶」は新石器時代より見られますが、緊密な土を用いた造形と、その陶胎に力強く文様を刻み出した殷(商)時代のものが特によく知られています。殷では大理石を用いた美術品が多く遺されるなど、白という色の聖性を強く意識した王朝であったと考えられます。その殷代に一般的であった通常の灰陶などと異なり、白陶は純度の高いカオリン土を精選し、祭祀用など特別なうつわとして製作されたものと思われます。本作は、そういった殷代の白陶とは異なり、彫りではなく印文であり、土もやや粗製、かつ裏に布を当てた布目の特徴があり、こういった特徴は西周〜戦国時代頃の陶器によく見られるものです。雷文は殷にもありますが、先述したように彫りと印文の差があるため、力強さと優美さの違いとなっており、そういった点からも本作は殷代のものとは時代の差がありそうです。西周以降の白陶文化は分からないことも多く、この陶片もまだまだ研究を要する作品と云えるでしょう。
古陶磁・金石の分野には、典型的ではなく世に類例が殆ど無いものも非常に多くあります。そういったものでも、美的に優れたものであれば鑑賞の対象とするのが鑑賞美術の世界です。美的な高いレベルである前提で、世に遺る似た作例との美質の差や文様の比較などによって時代感を推察したり、東西の文化の影響関係などを考察しながら「この品物は一体何なのか」ということ楽しむというのも古美術の楽しみと云えるでしょう。