明時代後期、嘉靖年間(1522~1566年)頃に作られた五彩の方壺です。多色を用いて器を装飾する五彩は明時代に流行します。景徳鎮の良質な磁土によって得られた白磁をキャンバスに、多彩な釉薬を用いた絵画的な文様によって器を彩るパターンが増え、様々な秀作が生み出されました。本作では、四方の各面に、洒脱な筆致で生き生きとした唐子が描かれています。凧揚げをする、蓮花を持つ、喜び遊ぶ唐子の図柄は子孫繁栄などを寓意した意匠で、華やかな吉祥文様の一つです。
方壺というのも明後期らしい器形です。器は円形が主流の中で、特に嘉靖期に升鉢、角皿といった四角形の器が増えるなど、新たな独自性を創出しました。これは同時期に隆盛した漆器などの影響が考えられ、そのデザインが官窯作品にも流入したものと考えられます。本作には銘がありませんが、作りの重厚さや胎の良さは官窯作品と変わらず、上手の作と云えるでしょう。器を彩る釉薬に薄い青色の翠青釉が用いられるのも明中期以降の特徴で、鮮やかな赤絵上に清新な印象を加えています。
鑑賞陶器らしいクラシカルな優品ですので、是非実物をご覧頂きたいと思います。