華麗な五彩に彩られた、明・萬暦年間の筆架です。筆架は文字通り筆を置くための実用的な文房具で、書斎を飾るために非常に凝った造形のものが作られています。明代後期の萬暦年間には硯や筆管といった様々な文房具が陶磁器で作られましたが、その中で特に造形として優れたものの一つが山峰を取り巻く三龍を立体的に造像した筆架で、鑑賞的な要素の強い彫刻的な作品と云えるでしょう。
この三龍山水筆架は少数ながらも散見されますが、本作は造形と発色に於いて一段と優れたものです。サイズがやや大ぶりで、龍文も崩れず力強く大変堂々とした佇まいをしています。また青花の色は濃艶で良質なコバルトが用いられていると思われ、萬暦年間の中でも国力の充実した前半期の作と考えられます。明の国力が衰退する萬暦後半期になると、青花も質が落ち、迫力のない色調になってしまいます。そういった点から、本作は座右に置くに相応しい萬暦五彩の逸品と云えるでしょう。
旧蔵者である洋画家、梅原龍三郎(1888~1986年)は古美術蒐集家としての側面も持ち合わせていました。特に好んだのがこの萬暦五彩で、氏の蔵した優品として名高い尊式瓶などは作品中にも度々登場しています。梅原の絵画からは濃厚な色彩感覚が看取されますが、萬暦の華やかな五彩からも強く影響を受けたことは疑いようがないでしょう。